[イ[インタビュー]かじさちこ(ウクレレピーナッツ)
[インタビュー実施日]2016年12月
[場所]ネット上にて
布や毛糸を組み合わせ、他にはない個性あふれるぬいぐるみ・あみぐるみ・雑貨を製作しているカジサチコさん。
「ウクレレピーナッツ」という楽しいブランド名で、オリジナル手ぬぐいの製作や、食器にイラストを描くお仕事などもなさっています。
その発想の豊かさや自由さの秘密をお聞きしました。
(2017.12 インタビュー・構成・編集 北山メル)
カジサチコさん
(イラストレータ・あみぐるみ作家・ぬいぐるみ作家)
◆カジさんは、毛糸や布の組み合わせでぬいぐるみやあみぐるみを製作なさっていますが、とても個性的でステキな作風ですね。
このような作品を製作しようと思ったきっかけはなんだったのですか?
私の住んでいる町は陶器の町なのですが、盃を作る地域、とっくりを作る地域というように、地域によって作っているものが違うんです。
以前委託販売していたお店が、たまたま湯たんぽを作る地域にあり、湯たんぽの販売もしていました。
そこで、湯たんぽのカバー作りを勧められました。
重たくて熱いものなので、しっかりした布製のカバンに、カラフルで楽しい毛糸のカバーを付けるというスタイルを見つけました(カバーはかぎ針編みです)。
ボーダーのカバーから始まり、テントウムシ、カエル、ブタなど作りました。その延長で動物の布バッグを作ってみようと思い、テディベアをつくるような布でハリネズミ、フリースでブタやモグラなど制作しました(ミシンもほぼ我流でしたので、ファスナーなど酷かったです)。
目や鼻、ほっぺたなどを作るのに、私にとっては毛糸が手軽で最適でした。
毛糸だと表情も温かくなるので、布だけよりも毛糸を使用した方が楽しいものになると思ったのです。
その頃、委託販売の他に地元の手づくりマーケットのようなイベントにも参加していたのですが、そこで目を引くために少し大きめの作品が欲しくて、布も素材として使い始めました。
布を使っても、やはり私にとっては毛糸の存在が便利で身近だったので、どこかに使いたくなるのだと思います。
◆地域とご自身のハンドメイドの融合なんて、とてもステキですね!地域おこしにも貢献していると思います。
そもそも編み物を始めたのは、どのようなきっかけなのでしょうか。
私の母や祖母は、昔から家族のセーターや手袋を編んでいました。
サイズが合わなくなったら解いて……気づけば、身近に毛糸玉や道具、編み物の本があったのです。
そんな環境だったので、「ちょっとやってみたい♪」などと言って、簡単なことを教わっていたのだと思います。
棒針編みが先だったけれど、作り目や綴じ方がわからず、ひたすら長いマフラーのようなものを編むしかできなかったのですけれど。
母は左利きなので、本に書いてあるものを頭の中で逆にして編むそうです。
左利きを理由に、「反対だから教えにくい」と割とあっさり断られたような記憶も。(笑)
そんなときは、3歳上の姉がかぎ針編みを教えてくれました。なんでも姉の真似をしていたので、裁縫(たま結びや刺繍、ミシンの使い方)は姉に教わりました。
祖母の編み物の腕前を母は尊敬していましたが、私はそういう母も凄いと思ってましたし(模様あみや編み込みなどで5本指の手袋を作ってくれましたから)、姉もニット帽などをたくさんプレゼントしてくれました。
そんな3人に比べ、あらゆる点で私は適当過ぎる!
本の通りに作ったり、人の真似をしたりするのが嫌いだったし、生活必需品を作るわけでもありませんでした。今もそれが自分らしいと思っています。
加えて、絵が好きな父の遺伝子も、うまい具合にミックスされて自分が存在しているのだと、最近よく感じて微笑ましくなったりしています。
◆環境と受け継がれた才能が、現在のウクレレピーナッツの作品の根底にあるのですね。
ぬいぐるみ協会との出会いのきっかけはどのようなことだったのでしょうか。
第2回ぬいぐるミーティングに委託販売をお願いしたのが始まりですが、そのイベントは、Twitterの方でぬいぐるみ協会さんからDMを頂き、教えて頂きました。
ブログ更新と同時にTwitterに投稿していましたので、やってて良かった♪とつくづく思います。
◆ぬいぐるミーティングには、どのような作品を出品したのですか?
第2回ぬいぐるミーティングはお買いものごっこという企画だったので、単価が低いものの方がお子さんもお買い物できるだろうと、私自身考えたと記憶しています。ヘアピンを始め、ストラップやキーケース、スマホケースなど機能付きのものなど、ほとんどが1000円以内のものでした。
当時地元で委託販売していた商品も、カフェの片隅に置いてもらうということで、小物メインで作っていました。そういうこともヒントになったと思います。
ブタさんや、ウサギ、カエルは中に鍵が隠れるようになったキーケースです。
おサルさんは、うしろからスマートフォンが入るものです。
◆かわいくて、リーズナブルで、それでいて実用性もある作品だったのですね。とてもよく考えられていて、楽しくなっちゃいますね。
今はぬいぐるみ協会のアーティスト会員として、協会のアトリエやウェブショップで作品を販売されていますが、「旅するぬいぐるみお試しパック」という企画が新しく始まって、ウクレレピーナッツの作品も販売されていますね。
ぬいぐるみ協会のコンセプトである「旅するぬいぐるみ」について、どのようなお考えをお持ちですか?
旅をするぬいぐるみと聞いて、素敵な企画と感じていましたが、自分のぬいぐるみがその写真の中にいるといないとでは、見方が全く変わりました。
不思議ですね、何気ない景色が特別な景色に変わりましたよ!
本当に自分もその旅に参加している気分です。
ぜひ皆さんにもこの気持ちを味わっていただきたいです。
今回、旅とセットになったぬいぐるみのお話をいただいて、出かける気満々の、カメラをぶら下げたヒツジさんを製作しました。
ありがたいことに、さっそくご購入いただきお出かけに連れ出してもらえて、とってもうれしいです!!
製作する上で、サイズ感やお座りが上手にできることなど、ぬいぐるみ協会からアドバイスをいただいた他は、自由に製作させていただきました。
この先も、もっと自由な発想で旅するぬいぐるみを作り出していけたら……と頭の中でいろいろ思い描いてます。
アーティスト会員さんの作品をご説明するのに、私ならではの言い回しでいろいろご紹介しているのですが、カジさんのことは「自由すぎる作家さん」とご紹介させていただいています。
動物の種類だけでなく素材や大きさも毎回違うし、表現方法も違っていて、新しい作品を送っていただくのが楽しみなんです。
箱をあけると「いやーん!」(いやではないのですが)と言ってしまいます。
「自由すぎる作家」という説明、結構気に入っています。ありがとうございます!
同じことを繰り返すのが苦痛で、思いついたまま制作しています。
◆カジさんも協会の中の人も自由な発想で、気が合いそうですね。
もし、ご自身が製作なさったぬいぐるみを旅させるとしたら、どんなところに、どんな旅をさせたいですか?
やっぱり自分では行かない、いけないところです。
高い山の上とか、極寒の地でオーロラが見えるようなところとか!?
あとは、建物が好きでして、いろいろなお家の佇まいに日頃から興味があり(世界の家という本を2冊持ってます)、ギリシャの街並み、南フランスの田舎の石畳の街、アジアとヨーロッパのちょうど間のようなトルコあたりの文化にも興味があります。
すごく立派できらびやかなお城よりも、一般的な人々の暮らしを感じられる街並みに、ちょこっとお邪魔したぬいぐるみを見てみたいです。
◆ステキですね!日本へのインバウンドでも、日常や地方の風景を見たいという外国の方々が大勢いらっしゃるそうですが、特別な場所やイベントではなく、海外の日常にぬいぐるみがいる風景というのは、とても興味深いですよね。
日常といえば、カジさんは子育ての真っ最中とお聞きしましたが、お忙しい日常の中で作品を製作するにあたって、工夫していることはありますか?
そうですね、気の向くものを少しずつ進めるということです。
何かを作っていたいので、そういう気力がある時は常に何かに取り掛かっています。それが編み物だったり、ぬいぐるみだったり、デザインやイラストだったりします。
あと、家事がものすごく手抜きです! いつになったらスッキリ片付いた家になるのでしょう!?
◆私は忙しくなくても手抜きです(笑) 仕事を持っていると、みなさんそうなりますよね。
数年前に体調を崩されたことがあるとお聞きしましたが……
5年前に、大きな病気をしました。
手術後ガリガリに痩せたのに加えて、ハードな治療でヘロヘロでした。早く歩けなくて、院内でもお婆さんに追い越されるくらいのスピードでしか歩けなかったのを覚えてます。
手術、麻酔、治療など、未知の世界を味わってしまいました。
食欲も減退し、顔も痩せ、鏡をみると悲しくなったのを覚えてます。
今思えばこういう人が世の中に沢山いて、闘っている人の気持ちが初めてわかった気がしました。
あと、家族のありがたさ。
自分だけでなくて、両親、夫、子どもたち、姉……みんなに助けてもらいました。感謝しかないです。
そんな中、食欲がなくてもできるのがかぎ針編みでした。病室でお友だちになった人に小さなあみぐるみをあげたりしました。
ブログで闘病を知った方からお仕事依頼されたりもしました。え!?って思ったけど、なんかやらなきゃ!って思うことが気持ちを強くしてくれたと思います。
もちろん、体のことを考えてゆっくり製作しました。
何か作り出して、写真をブログに載せて、みんなの反応を元気の源にしていました。かぎ針編みのいいところは、少しずつできるところです。隙間の時間にちょっとやって、また後で、という具合に。
ご病気のことをお話してくださって、ありがとうございます。
かじさんのブログで、最近病院に行かれて、「ほっと一安心」というような記事を見て、「以前大きな病気をされたことがある方だったんだ……」と思いまして、少しお聞きできたらなと思ったんです。ご病気されたこと存じてなかったものですから。
ご病気をされている方で、ぬいぐるみたちが心の支えになったというお話はお聞きするのですが、作る側にとっても支えになっているんですね。
目標があると元気が出ますね!
この写真は、闘病中に作ったものの一部です。
これらはお仕事ととして頼まれたものやプレゼントしたもので、手元にはほとんど残っていません。
もっとたくさんあり、今よりたくさん作っていたんだ……と振り返って思いました(笑)
製作していると気が紛れるし、何もしないと病気のことや良くないことなどを考えてしまうのもあったのかと思います。
(地元で「SUNTRAP(サントラップ)」という名前で活動していたので、写真に名前が入っています)
◆闘病中の方々にとっても、とても励まされるお話ですね。何かをクリエイトするということは、0から物を作り上げることですし、新しい命や未来を作り出すことでもあるので、励みになりますよね。
以前は別のブランド名で活動していたということですが、現在の「ウクレレピーナッツ」という楽しいブランド名は、どういう由来なのでしょうか。
ウクレレピーナッツという名前は、ブログを始めるときのハンドルネームでした。
「ピーナッツ」さんはもういらっしゃったので、どうしようかと部屋を見回したら、当時製作していたウクレレを持ったピーナッツのあみぐるみが目に入り、咄嗟に名前にしてしまいました。
そもそもピーナッツをあみぐるみで作ろうと思ったのも、たまたまふらっと立ち寄ったお店で毛糸玉を見た瞬間「コレはピーナッツを作る毛糸だ!」と感じたからです。ウクレレは前から持っていて、あまり上手には弾けませんが、お手軽な楽器で気取らないイメージですし、ウクレレっていう響きもなんだか明るく楽しげなイメージだったので、「変な名前かな?」と思いましたが、その後私自身もだんだん慣れ、皆さんにも覚えてもらえるだろうと思い、そのままにしました。
格好いい名前に憧れる反面、恥ずかしいからこのくらいでちょうどよいと思ってます(笑)
あとから気が付きましたが、ピーナッツとか、ウクレレとか、アコースティックギター、ひょうたんなど、あのクビレのあるフォルムがどうやら好きらしいです。
◆なるほど!あのフォルムがお好きというのはとてもよくわかります。私もあみぐるみ協会の中の人の影響でウクレレを始めたり、中学時代からフォークギターをやっていたのですが、ウクレレは形も音もとてもキュートですし、癒し系ですよね。
毛糸に出会ったエピソードも、直感をイメージに結びつける才能を感じます。
今後、アーティストとしての夢や目標はありますか?
「○○といったらカジサチコ」とか「ウクレレピーナッツだ!」と言ってもらえるような作品ができるように、創っていくことです。そうなるためには、感動してもらえるような仕事をしないと、と思います。
また、布や毛糸を見てワクワクする気持ちと、インスピレーション、調和など楽しんで製作していきたいです。
絵本とあみぐるみ・ぬいぐるみのコラボレーションも夢ですね。
みなさんの思い出の隅っこに仲間に入れて頂けたら、最高にうれしいです。
そういう点でも、旅するぬいぐるみが多くの方に知っていただけることを願っています。
◆思い出の中に自分の作品があるって、理想ですね。ぬいぐるみやあみぐるみが誰かの心を満たす存在であり、ちょっと大げさですが、最後に持ち主が「いい人生だったな」と思ってくだされば、これ以上うれしいことはないですね。
最後に、アーティストとしてみなさんにぜひ伝えたいということがあれば、お聞かせください。
私の作るぬいぐるみたちは、毛糸の組み合わせや色合いなどにこだわりを持って、考えて作ってます。
そして、小物を付けるとしたら、やはりそれらもできるだけ作ります。商品のタグもひとつひとつ手書きで作ります。そういう細かなところも、楽しんで作っています。
手に取って下さった方も、楽しんでいただけたらシアワセです!
◆細部にわたってこだわりを持ち、何よりカジさんご自身が楽しんで製作しているのですね。作家が楽しいからこそ受け取る側も楽しいんですよね。
楽しいご回答、ありがとうございました!
カジサチコさん、大変積極的にお答えくださり、楽しくインタビューできました。
「かぎ針編みの良さは、少しずつ編み進められるところ」というお話が何度か出てきましたが、かぎ針編みの良さを作品に活かして製作されているところは、かぎ針編みへの愛を感じました。
ものつくりによって人に喜びをもたらすだけでなく、ご自身も前向きになり、治療に向かえたというお話は、思わずホロリとしました。
楽しくて、優しいインタビュー内容は、カジさんの作風そのものだなあと思いました。
カジサチコ(ウクレレピーナッツ)
イラストレータ・あみぐるみ作家・ぬいぐるみ作家
名古屋芸術大学 日本画専攻卒業
ディスプレイ会社に勤務
三児の母。退職後、子育てを機に、子供の頃から好きだった手芸や工作を再開し
地元多治見市に関連する作品なども手がける。
病気療養中、イラストを描いたり、あみぐるみを作ることが心の支えになり、以降の作品づくりにも当時の気持ちが込められている。
型にとらわれない自由な発想から生まれる愉快な作品は手に取る型の心を和ませてくれると好評。
地元多治見市で開催されるイベントを中心に活動。
陶磁工房 桃山にてデザイナーとして活動。
http://www.momo-yama.jp/
その他、Creema、minneに出品
NPO法人日本ぬいぐるみ協会アーティスト会員として活動。
ちっちゃなあみぐるみの仲間たち(ブティック社)作品掲載
▼ブログ
「ウクレレピーナッツの ほのぼのぬいぐるみ・あみぐるみ作り」
https://ameblo.jp/suntrap-113/
インタビューアー・北山メル
あみぐるみ、ぬいぐるみ作家。オーガニック素材などにこだわりを持ち製作。オリジナル作品ミランコビッチ君に旅をさせ「ぬいぐるみの旅」を楽しんでいる。
またライター業も手がけている。
NPO法人日本ぬいぐるみ協会アーティスト会員 日本あみぐるみ協会会員
https://www.facebook.com/kiyurakobo